急性期・回復期STと老健STの葛藤。

 先日、施設長のDr.であるA先生と話していた時、見解の相違を再認識した。これは、勤め始めてからずっと心にある葛藤なのだけれど、まだ割り切って考えられないのだ。地域性なのか、施設の役割が違うからなのか、そこさえも曖昧。というわけで、文章で整理して考えていきたいと思う。


 私が過去の数年間、勤めてきたのは急性期の総合病院だった。まだ容態は安定してないICUから介入し、急速な回復の経過を共に歩むリハビリだ。もちろん、亡くなる方もいらっしゃるし、高齢な方だと状態が悪化する場合もある。しかし、その状態ではリハビリは出来ないので、オーダーが出ることはない。
 ところが、現在の職場は介護老人保健施設(老健)だ。ご利用者は、容態の安定してきた高齢者が多い。終末期を看取る事もある。人間の一生のサイクルの中での、最後の部分に携わる職場だと思っている。人間も生物なので、必ず死は訪れるのだが、気力はもちろん、体力も落ちていく姿と向き合うのは、辛い。生活そのもの(衣食住)と密な関係にある「家庭」としての役割を担う施設だからなのだろうと思う。
 そんな中で、今出来ることを継続して出来るようにという「機能の維持」「生命(生活)の質の向上(QOLの向上)」を目的として訓練をするのが、リハビリ職の役割だと考えている。けれども、ここは「特別養護老人ホーム」ではなく「老人保健施設」なのだから、「家庭復帰」できる可能性もある施設だ。そう考えると、「機能の向上」についても、リハの重要な役割として考えていかなくてはならないと思う。


 A先生は小児科医で、総合病院でバリバリやってきた人だ。特に対象者が発達途上の小児ということで、その回復はめまぐるしい。発達そのものはゆっくりだが、確実に出来る事が増えていく事の方が多いので、沢山の喜びを共有できるし、充実感がある。
 それと比較してはいけないのだが、やはり高齢者と小児は違う。A先生は、今まで携わってきた仕事との差に、戸惑ってしまうと仰っていた。確かにその通りだと思う。私も少なからず小児とも接してきたし、気持ちはよく分かる。


 先日、胃ろうを造設した女性Kさん(ST依頼の件でトラブった入所者さん)が入所された。A先生いわく、ご家族内での意見の相違があり、入所に関しても、施設長として気をつかう事が多い方なのだそうだ。
 Kさんは、もともと併設の医院に入院されていた方で、かなり危ないところを助かった方だ。危険な状態になった時、息子さんは「どうしても生きていて欲しい!」と希望され、病院側も精一杯の処置をして、一命をとりとめた。しかしお嫁さんは「どうして助けたの!」と嘆くのだそうだ。寝たきりになって意識もハッキリしないなら、そのまま逝かせて欲しかったと。どちらの気持ちもよく分かる。
 この話をしながら、A先生は言った。


 「ペグ(胃ろう)まで刺して、生きるのはおかしい」
 「衰えていく人をみるのはつらい」


 「生きる」ということの価値観は、人それぞれなので、色々な意見があっていい。身動きが取れなかったり、意識レベルや認知能力の問題で「自分」が「自分」でなくなるなら、死んだほうがいい。そう思う人もいれば、自分が生きている事で家族の気持ちが救われるなら生きたい!と願う人もいる。安楽死の問題も、生と死の価値観の違いから倫理を問われ続けているのだろうし。
 ただ、そのあとの言葉がとてもとても心に刺さった。


 「ここは老健だから、改善はしない」
 そんな内容だった。


 Dr.はそう言ったが、Kさんの意識レベルは、入所当時に比べて改善してきている。もちろん、重傷度は高いので発語はないが、声かけに反応がみられるようになったのだ。口腔内の状態も改善方向で、肺炎のリスクも減ってきた。少しでも、良い状態で生きていけるように、それが私の仕事だ。他のリハ対象者についても、維持できるように、少しでも出来る事が増えるように、そう思ってリハビリをしている。出来うる術を尽くして、それでも機能が落ちるのは否めないが、手を尽くす前に言うのはどうなのだろう。私自身、過度な期待はしていない。だけど、、、言われた。
 「mahoちゃん、ここは病院じゃないから改善はしないよ」という言葉に、この地域のDr.の考え方をみた気がした。それでは、何のためのリハビリなのだろう?


 昨年10月の介護保険制度の改正で、栄養ケアの側面が重視されるようになった。これは、低栄養のリスクを軽減するために「口から食べる」ことの訓練=摂食嚥下訓練の重要性を全国的に認知されたと考えることが出来る。これだけ、認識が高まっているにも関わらず、訓練による可能性を否定されてしまうと、本当にどうして良いのか分からなくなる。
 確かに、高齢の方の訓練とその効果に関しては、難しいと思う。落胆することもある。けれども、ご本人の利益となる可能性には、前向きに取り組むべきだと思う。


 日々葛藤。
 先生も、葛藤しているんだろう。